Last Star 夜明け前




    それから、幾許かの月日が流れた。



「可能性・・・か」
 月影――いや、月夜はベッドの上で深い息をついた。その傍らには、少し背が伸びた陽一がいる。
「その可能性を守っていくのが、僕のこれからの仕事だ。
 できれば・・・お前にも、手伝って欲しいと思ってる。一緒にこの里と、ここに暮らす人たちを守っていかないか」
 月夜は宙を仰いだ。
「・・・兄上や・・・皆さんが、私を許してくれるのなら・・・」
「悲しみは深い。
 だけど、人は変わっていく。それもまた『可能性』だよ」
 陽一は窓の外に目をやった。その視線の先には、片手だけの松葉杖にすがりつつ、懸命に歩こうとする翼が居た。

 教会の裏手。北斗は立ち並ぶたくさんの墓石の、ひとつひとつをていねいに磨いていた。
「ご苦労様。少し休憩したら?」
 母が飲み物を持ってやってきた。
「ああ、ありがとう」
 コップに口をつけながら、北斗はぼんやりと空を眺めた。透き通るような青さ。
 視線を下に落とし、まだ包帯を巻いたままの左手にそっと触れた。

「みなみー、居るかー?」
「あ、光輝さん!」
 扉の隙間から顔を出す光輝に、みなみは笑顔で答えた。
「よう、ただいま。どうだ?勉強は順調か?」
「今は実技の練習。ねっ、ポーラ」
「うん」
 彼女の後ろからひょっこり顔を出したのはポーラだった。顔の右半分には、みなみの手で白い包帯が巻かれていた。
「みなみ、上手になったよ。時間がたっても緩くならないんだ」
「そっか。頑張ってんな、看護師になる勉強」
「ありがと。あ、そうだ。怜から連絡あったよ」
「何!? あいつ・・・連絡してくるなって言ったくせに、自分からかけてんのか」
「近況報告とお互い頑張ろうって話だったんだけど・・・大変みたいだよ、修理工見習い。光輝さん相手じゃ泣き言言っちゃいそうだから、って」
 光輝はため息をついた。
「まったく・・・仕方ねーから待っててやるか。一緒に仕事が出来るまでな」
「光輝さんがエンジニアなら、自分はそれを修理する仕事をしたい・・・だっけ。いいね、兄弟って」
 みなみが微笑む。光輝は頭を掻いた。ポーラはその様子を見つめて、笑う。まだ少しだけぎこちない微笑ではあったが。
 光輝はふっと表情を曇らせると言った。
「なあ・・・あいつは?」
「・・・まだ・・・だよ」
 みなみも少し表情が硬くなる。しかし笑みは消えなかった。
「でも決めてるの。悲しい顔はしないって」
「そうか。見舞い、行ってくるよ」
 光輝も笑みを返し、部屋を出た。

 日の光が差し込む病室。光輝は勢いよく窓を開けてやる。
「今日も風が気持ちよくて、いい天気だぞ」
 カーテンが翻る。眠っている少女の髪が揺れた。
「俺たち、ずっと待ってるぜ。早く目を覚ませよ――明莉。」


Fin