Star.32 命の限り
「総帥っ!!」
辿り着いた明莉達の目に飛び込んできたのは、【マザー】のコントロールパネルと格闘している陽一だった。
「大丈夫ですか!? これ、いったいどうしたら・・・」
「【マザー】プログラムを止めるんだ・・・そうすればおそらく全てが止まる。そう思ってやってはいるんだが・・・」
「総帥、俺が代わります!」
光輝は陽一と交代したが、キーを叩き始めるなり顔色を変えた。
「げっ・・・何だ、この複雑なプログラム!」
「・・・当然だろう」
声に皆が振り返ると、壁にもたれうずくまった月影がいた。
「この組織、全体を・・・統率してきた・・・プログラムだ。複雑で・・・当然・・・だろう?」
「だったら、お前なら止められるんじゃないのか!? 月夜!!」
「・・・無理ですよ。利き手が、このザマではね」
月影は血の滴る右腕を少し掲げてみせる。辺りの揺れはますます激しさを増している。
「・・・兄上様。貴方が語る『人間の可能性』とやらを・・・見せていただきましょう」
「兄貴っ・・・まだなのかよ!!」
焦って声を挙げる怜。足元の床が悲鳴を上げ、深い亀裂が入る。
「やってんだよ! けど・・・!!」
バキィ!!
「うわあ!?」
天井が裂け、瓦礫となって落ちてくる。
「やばいって、もう逃げよう!!」
「そりゃ無理だ・・・この分じゃ転移装置も使えないだろうし、扉だって開かない可能性が――」
「そんな・・・!!」
「・・・だったら・・・!!」
明莉が上に向かって右手を掲げると、青い光がドーム状に広がり全員を包み込んだ。
「!! これは・・・」
陽一が驚いて見上げた。
「ヤドリギの・・・力です」
「サンキュー、明莉!これなら集中できるぜ!!」
再び勢いよくキーを叩き出す光輝。だが陽一は難しい顔をして青い光を見上げる。
「しかし・・・長くこの状態でいるのは危険だ」
「どういうことですか、総帥!?」
「前にも言ったはずだ、ヤドリギは明莉の命そのものだと。その力をこうして使ってるってことは・・・自分自身の命を削ってるに等しいのさ」
「!! じゃあ、使い続ければ明莉は・・・!」
皆が息を呑む。陽一は唇をかんだ。
「そのことも追々教えていくつもりだったんだが、まさか短期間でここまで使えるようになるとは・・・」
明莉は光を手で支えながら、脂汗を流していた。落下物の衝撃も加わって疲労が増している。
「くっ・・・」
「しっかりして、明莉!!」
みなみがその体を支えた。ポーラを背負ったままの北斗は、焦って光輝を振り返る。
「コウ兄、急いでくれ!!」
「分かって・・・あ!?」
パネルから鳴り響く不快な機械音。
「おい、こんなときにエラーかよ!!」
怜が怒鳴った。
「違うって! ロックがかかってんだよ、認証パスがないとここから先は・・・!!」
「あ、明莉!!」
みなみの悲鳴。明莉が崩れるようにしゃがみこんでいた。ドームの光が弱まる。
「くそ・・・万事休すか・・・!!」
北斗はぎゅっと目をつむった。
と、彼の耳に、轟音に混じって聞き慣れない音がした。サク、という音が。
「あれは、」
目を開けると、瓦礫と瓦礫の間に細い棒のようなものが見えていた。何かが縛りつけてある。
手に取ってみるとそれは、小さな紙切れを縛り付けた矢だった。北斗はその矢に見覚えがあった。
「あいつ・・・」
それはリゲルのボウガンの矢だった。北斗は目だけで出入り口を見る。そこはもう瓦礫で閉ざされていた。
「!! それはいったい・・・」
北斗は紙切れを開いて読み上げた。
『この状況を止めたいなら、ポーラを目覚めさせろ。認証パスはプレヒューマンの個体データだ。
強制切断をかけた今、ポーラは【マザー】の影響の外にいる。ポーラにヤドリギの力を注げば、目覚めるはずだ』
「信用できるのかよ、それ!?」
「今は・・・信じるしかないよ」
明莉が息も絶え絶えに言った。
「でも、この状況でこれ以上ヤドリギを使ったら・・・」
「命に関わる」
みなみの後を陽一が引き取った。
「そんな!! だめだ、絶対にそんなの―――」
言いかけた光輝は、明莉の顔を見て声を失った。迷いのないその瞳。
「やるよ。私にしか出来ないことだから」
「・・・明莉・・・」
光輝は泣きそうな顔をして、それでも目をそらさなかった。
「ごめんなさい」
「・・・謝るなよ・・・!!」
強引に顔をぬぐう光輝。
「本当に、いいんだな?」
北斗が問いかけた。
「きっと、私の役目なんだと思う」
頷いて答える明莉。
怜と光輝が北斗に手を貸し、ポーラを下ろして横たえた。みなみは目を真っ赤にさせて、明莉の後ろから支えるように肩を抱いた。
明莉の右手の痣が、ひときわ強い光を放った。
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