Star.30 Marionette

「お前・・・自分が何を言っているか分かっているのか?」
 レグルスは怪訝な顔をして、リゲルに尋ねた。
「分かってるさ」
「かつて友と呼んだ者を、操り人形にすると?」
「あいつはもう友じゃない。裏切り者だ」
 レグルスはかぶりを振って、席を立った。
「・・・やりたいなら自分でやるんだな。そいつさえ借りれば私は不要だろう。ただし――うまくいくとは限らない。それだけは言っておく」

 総帥の元へ向かう一同。その道中、皆いろいろな話を交わしていた。
 具現化し、襲ってきた『恐怖』の形。
 過去へと向き合い、克服した後悔。
 そして、プレヒューマンという存在について。
「人間の形しただけの、機械・・・。ずっとそう思ってきたんだ。だけど、本当はどうなんだろうな」
 光輝がこぼした。明莉はその横顔を見つめる。

 ところが、ポーラが急に足を止めた。
「・・・あれ?」
「どうしたの?」
「うん・・・なんか、頭が・・・」
 頭痛でもするかのようにこめかみを押さえるポーラ。だが突如その表情が苦痛に変わる。
「っ・・・ああああ!!」
「ポーラ!?」
 絶叫とともにしゃがみこむ。全員驚いて彼に駆け寄る。
「おい、ポーラ!どうしたんだよ、しっかりしろ!!」
「あああ・・・ああ・・・」
 北斗の呼びかけにも答えられず、しばらくのあいだもがいていたポーラだったが、ふいに静かになる。
「ポーラ・・・?」
「・・・・・・わああああ!!」
 叫びとともに、ポーラは北斗に飛び掛った。そして懐から二振りの折りたたみ式の剣を取り出し、両手に構えた。
「なっ――!?」
 両手を同時に振り下ろす。とっさに自分の剣で受け止める北斗だったが、衝撃が痛い。
「やめろ!!」
 怜と光輝がポーラを取り押さえる。だが彼は抵抗し続け、双剣をがむしゃらに振り回す。
「どうなってるの!?」
「・・・さっき自分で言っといて何だけど、やっぱ信用するのはまずかったんじゃ・・・!」
 怜が必死に彼を抑えながら言った。
「そんな!!」
 異を唱えつつも、見ているしかできない明莉とみなみ。ポーラの刃が怜たちの肌をかする。浅い切り傷がいくつもできる。
「くっ・・・やめろって・・・うわあ!!」
 ポーラの激しい抵抗に怜と光輝は体のバランスを崩し、もつれ合って倒れこんでしまう。
 その衝撃で、ポーラの仮面がはじけ飛んだ。
「!!」
 むき出しになった顔。どこか虚ろになった瞳が、北斗を映した。
「ポーラ・・・?」
「っ・・・・・・」

 唐突に抵抗が止んだ。一瞬、ポーラと北斗は互いを見つめあった。

 次の瞬間ポーラは糸が切れたようにぱったりと倒れ、身動き一つしなくなってしまった。
「・・・ポーラ? ど、どうしたんだ・・・!?」
「やはりな」
 知らない声がして顔を上げると、大きな鏡を抱えた青年が立っていた。

「ど、どういうことだ!?」
 モニターを見ていたリゲルが叫ぶ。
「まさか・・・強制停止をかけたのか?! 自分自身に!?」
 うまくいくとは限らない――レグルスの言葉が頭をよぎった。

 北斗とみなみが驚いて叫ぶ。
「レグルス!!」
「どういうこと?ポーラに何をしたの?!」
 レグルスは、倒れたポーラを静かに見つめる。
「・・・語る必要はない」
 レグルスは鏡をこちらに向けた。鏡は自ら輝きを発し、すさまじい衝撃波が発生する。
「わああ!!」
 体が吹き飛びそうなほどの衝撃が襲う。北斗、怜、光輝は剣を床に突き立て、同時に明莉たちを抱えるように支えながら体勢を立て直すが、それもかなり危うい。
「・・・ヤドリギよ・・・力を貸して」
 明莉は光輝の下から右手を伸ばした。巨大な光の盾が姿を現し、衝撃波をとどめる。レグルスが顔をゆがめた。
(・・・やはりな・・・)
「今だ!!」
 相手の一番近くにいた北斗とみなみは同時に立ち上がり、光の盾を跳び超えた。
「やああ!!」
 北斗の剣とみなみの拳が、レグルスの鏡を叩き割った。