Star.29 擬似人間

「どう?光輝さん」
「もう少しだ・・・っと、よっしゃ。直ったぞ」
 光輝の手によって、明莉たち全員の壊れた端末が修復された。
「さすが兄貴。これで北斗と総帥の居場所が分かるな」
「向こうの端末も壊れてる可能性はあるけど、位置の特定ぐらいはできるだろう。ちょっと待ってな・・・」
 一心に端末を操作する光輝を見ながら、みなみは少し沈んだ顔をしていた。
「どうしたの?みなみ」
「ポーラ・・・大丈夫かな」
「そういえば・・・気になるね」
「ポーラって誰だよ」
 怜が尋ねた。光輝も顔を上げて怪訝な顔をする。そういえばこの二人はまだポーラのことを知らない。
「プレヒューマンなんだけどね・・・私たちのこと助けてくれたの。信じられないかもしれないけど・・・」
「・・・前の俺たちだったら、『騙されるな、あいつらは敵だ!!』って怒鳴ってただろうけど・・・今は・・・なんとも言えねえな」
 明莉は二人をまっすぐ見つめる。
「会ってくれればわかると思う。ねえ、ポーラも一緒に連れて帰ろう。私たち恩があるし、そのせいで裏切り扱いされるかもしれないから、ほっとけないし・・・
 それに、きっと仲間になれるよ」
「・・・どうして」
「北斗に、似ているもの」
 しばしあっけに取られる二人だったが、光輝が大きくため息をついた。
「やれやれ・・・とにかく、結論出すのは、会ってからっつうことでいいだろ?」
「うん!」

(さて、困ったものだ・・・)
 自室でモニターを睨むようにしながら、レグルスは考えていた。
 自分の得意とする戦法は、主に相手が一人の場合である。心理戦にせよ、鏡を使って幻惑するにせよ、最も効果を発揮するのは対象が一人のときだけだ。
 相手の人数が多ければ多いほど難しくなる。だから最初にバラバラに分断したのであるが・・・
(何よりも、あの少女がヤドリギの力を発揮すれば、私の力など物の数ではない・・・もはや同じ手は使えまい)
「レグルス」
 振り返るとリゲルが入ってきていた。
「作戦とやらはできたのか? ・・・その様子ではまだみたいだな」
「お前、何か考えがあるというのか?」
 リゲルはそれに答えず、レグルスのデスクの引き出しを探るように見つめていた。
「・・・ポーラが、裏切った」
「何っ!?」
「だからあんたの力を借りに来たんだ。持ってんだろう?“修復プログラム”」
「ま、まさかあれを使って・・・」
「・・・そうさ。本来はポーラの不安定な精神回路が異常をきたしたときに、『正常化』するためのプログラムだ。
 だがプログラムの中身を書き替えれば・・・あいつを自由に操ることができる。あいつの回路に直接作用する、その性質を生かせばな」
「ポーラにやらせるというのか。あいつらを」
「僕たちプレヒューマンはマスターに逆らっちゃいけないんだ。それを思い出させてやる・・・!」

「ところで兄貴、北斗たちの位置探知は済んだのか?」
「あっ・・・やばい、忘れてた」
「おいおい・・・」
 慌てて端末に向かう光輝。
「二人同時は時間かかるんだよ。こっちは総帥の方やってるからさ、怜は北斗を――」
「その必要はないさ」
 突然の声に全員がそちらを見た。
「北斗!!」
「それに・・・ポーラ」
 北斗のやや後ろに立つポーラは、仮面の奥からこちらを見つめていた。
「どうして一緒に!?」
 みなみに問われ、北斗はポーラを振り返りながら答えた。
「こいつは、もう一人の俺――俺のDNAから生まれたプレヒューマンなんだ」
「ええ!?」
「どうしてみんなのところへ連れてきたのかって聞かれると・・・正直、自分でも不思議なんだ。
 考えてみたらこいつは俺にとって敵の組織の一員であり、さらに忌わしい過去の象徴とも言える存在なんだよな。
 なのに・・・何でだろう、ずっと前からの友達のような、ずっと会いたかった相手のような・・・そんな気がするんだ。
 みんなとこいつを会わせて、それでどうなるかは分からないけど・・・そうしたいと思った」
 それを聞いて、明莉は微笑んだ。
「そっか。北斗も私とおんなじだったんだね」
「・・・そうらしいな」
 見えない何かを理解し合ったらしい二人を、一同何とも言えず見ている。と、それを破る声がした。
「あの、」
「な、何?ポーラ」
「僕は、いいんでしょうか・・・ここにいても」
「えーと・・・私はいいんだけど・・・」
 みなみは兄弟を振り返った。光輝は困惑の表情で頭を掻く。
「あ・・・いや・・・いい・・・んじゃないか?特に俺らのこと攻撃しようとか、そんな風に考えてるんじゃ・・・ないんだろ? たぶんだけど」
「明莉とみなみを助けてくれたみたいだしな。まあ、北斗の分身みたいなものって事で」
 怜も続けた。とりあえずはいいらしい。
「あとは、とにかく総帥と合流しなきゃな」
 そう言って端末の画面を覗く光輝。
「お、どうやら探知結果が出てたようだぜ・・・これってどのあたりだ?」
 ポーラは彼の横から、横から画面に示された座標を見た。
「・・・【マザー】・・・メインコンピューター【マザー】の部屋だ」