Star.27 人間

「光輝さんの声だ・・・」
 扉に耳をつけたみなみが言った。
「兄貴が!?」
 怜も、明莉もみなみに倣う。確かに聞き覚えのある光輝の声と、もう一人知らない男の声がやりとりをしている。
「なんか・・・やばそうじゃない? 私たちも行った方が――」
「でもこの扉、どうやって開けるの?」
 どう見てもコンピューター制御の扉。今までのそれとは違い、操作パネルも、端末を接続できるような場所も無い。
 それでも3人であちこち調べてみたが、何の手がかりも見つからない。
「・・・じゃあ、ぶち破るか」
「へっ!?」
 明莉とみなみは揃って怜を振り返った。彼は不敵な笑みを浮かべ、まだ青みの残る大剣を構えていた。

 光輝はじっと、ベテルギウスを見つめた。
「理由――か」
「誰か来たのか?俺達を助けに?」
「いや、誰も来なかった」
「じゃあ、なぜ・・・!!」
 彼はやや間を取ってから、口を開いた。その瞬間――

  ドガン!!

「なっ!?」
 盛大な音を立てて空間(実際は壁)が爆発した。
 ガバッと開いた穴の向こうに、剣を振り下ろした怜がいた。そしてその後ろで唖然となっている女子二人も。
「れ、怜・・・」
 怜は一瞬、目だけで明莉を振り返った。そして次の瞬間、いきなりベテルギウスへ突進し剣を振るった。
「むっ!!」
 ベテルギウスがその剣を受け止め、切り合いが始まる。しばしそれを見守っていた二人だったが、急にみなみが我に返った。
「明莉、今のうちに光輝さんを!」
「あ、うん!!」
 二人は急いで光輝に駆け寄って助け起こした。明莉が怜にしたように右手をかざすと、青い光が輝き傷を癒していく。
「大丈夫ですか?」
「・・・ああ・・・」
 光輝は半身を起こし、目の前の戦いを呆然と見つめる。
 しかし、怜もあまり善戦しているようには見えなかった。相手はプレヒューマンの猛者。加えて先ほどの自分の戦いで、怜自身も疲労している。
「ぐうっ!!」
 弾き飛ばされて転がる怜。
「もうよせ、怜!!」
 いたたまれなくなって光輝が叫んだ。だが怜はグラつきながらも立ち上がろうとする。
「今度は俺が、兄貴を守る番だ。兄貴は一人じゃない・・・どんな時でも。だから・・・一人で悩まないでくれ」
「・・・!!」
 怜は勢いに任せて立ち上がり、再び剣を振るった。その後ろ姿をじっと見つめる光輝。
「・・・まったく、情けないよな俺」
「え?」
「情けないよ。あいつ・・・知らない間にでかくなりやがって」
 光輝はロッドをぐっと握り締め、柄の部分を力をこめて回した。
「!?」
 金属棒の部分が中に引っ込み、かわりに出てきたのは細身の刃だった。
「これがこいつの本当の姿さ。今までは使えなかった・・・怖かったからな。でも、今なら・・・!」
 光輝は勢いよく立ち上がり、その刃をベテルギウスに向けて構え、怜の隣に立った。
「すまん。もう思い出に惑わされたりしない、そう決めてたんだけどな」
「いいって!」
 兄弟は互いに笑みをかわし合うと、相手に突進していった。
 怜が剣を薙ぐ。光輝が体術に刃を振る動作を織り込む。二人の連携が、ベテルギウスを押していく。
 ついにベテルギウスは壁際に追い込まれた。
「――そうか」
 ベテルギウスは・・・なぜか納得したと言う顔になった。
「実は、私もずっと考えていた。先ほどお前に聞かれたことを」
「えっ?」
「なぜ、あの時お前達を見逃したのか――自分でも分からなかったからだ。なぜあの時、刀を上げるのを躊躇したのか・・・たった今、その答えが出た。
 予感していたのだろう、この瞬間が来ることを」
「・・・!!?」
「そもそも私は、マスターの手足となって動くことを義務付けられて存在している。だが戦いに赴く度、いつもそこに、揺らぐような違和感があった。
 最初は精神回路にバグでもあるのかと思っていた。だが今思えばそうではなかった。罪なき者を手にかけることを良しとしなかったのだ・・・私を形作った人間が。
 お前達が私を止める日が来ることを、きっと望んでいたのだ。これ以上、『私』が望まない過ちを繰り返さないために。
 面白いものだな、人間というやつは」
 ベテルギウスはそっと目を閉じ、自らの胸に刀をつき立てた。