Star.26 恐怖の正体

 鋭い金属音が、空気をふるわせる。
 ロッドと長刀。光輝とベテルギウスは、まさに死闘と呼ぶにふさわしい戦いを繰り広げていた。
「お前はあの戦争の時、『ここ』にいた子供か」
「覚えててくれたとは、っ、光栄だな・・・!!」
「私は『機械』だから忘れない。それに、この景色に強い『恐怖』を覚える人間はお前くらいだろう」
「・・・どういう意味だ!!」
 必死でロッドを振るい、声を張る光輝。
「この景色は、レグルスの術がお前の脳に作用することで作り出されたものだ。特にあの術は最も強い『恐怖』のイメージに敏感に反応する。
 ・・・悪趣味なことだがな」
 長刀が、彼の頭上に振り下ろされた。光輝の劣勢は明らかだった。体の裂傷、その痛みと血、そして視覚を支配する『恐怖』が彼の精神を削り取る。
 ロッドの電流で、多少は相手の動きを鈍らせているが、決定打はとても与えられない。
 ついに、光輝はひざを折った。息が、荒い。そこに大きな影が覆いかぶさる。
「最後に・・・教えろよ」
「何をだ」
「俺と・・・弟は、なぜあの時死ななかった」
 怪訝な顔をして見下ろすベテルギウス。
「あいにく俺は人間なんでね・・・あんたほど物覚えが良くないんだよ。
 あんたはあの時、俺達に気づいてたはずだ。それなのに、なぜ・・・殺さなかったんだ・・・」

「どこよ、ここ!?」
 明莉とみなみが転移してきたのは、どこまでも続く荒地の中だった。いや、何度も言うようだが立体映像だ。
「面白いものって・・・これ?」
 二人は辺りを見回した。轟々と吹き荒れる風。人の気配は・・・
「! あれ!!」
 明莉が指差した先にはいくつかの影。剣戟の音もかすかに聞こえる。
「行こう!!」
 二人は走った。そして、見えてきたのは・・・
「怜!!?」
 何十体もの機械兵士に囲まれ、戦っている怜。いや、どちらかというとあしらわれていると言う表現の方が近い。怜はすでにボロボロだ。
「怜!! 怜ー!!」
 二人が走りながら叫ぶが、風の音に遮られて怜には届かない。しかも近づけば近づくほど平衡感覚がおかしくなり、次第に走れなくなってくる。
「認めたくないけど、さすがレグルスの術ね・・・どうする、明莉?」
「銃にしても、ここからじゃ狙いが付けられないし、・・・」
 あごに手を当てて考えるしぐさをする明莉。すると、右手の甲の青い痣・・・ヤドリギの痕が目に入った。
「総帥は、この力は命あるものの望みに応えるって言ってた・・・。翼君を守らなくちゃって思ったら盾になった。怜を助けなきゃって思ったら、傷を癒した・・・
 もしかしたら・・・」
 明莉は、向こうに見えている影に向かって右手を開いた。

 このままではまた置いていかれる。いや、もう置いていかれたかもしれない。
 怜にとって最も大きなショックは、心の支えであった兄がいなくなった日だった。結局は戻ってきてくれたが、兄と離れていた頃のことは思い出すだけで胸が締め付けられる。
 それだけではない。戦争が終わっても明莉は帰って来ず、兄が去ってしばらくして北斗は行方をくらまし、それを追って琴乃も消えた。かつて遊んだ友達は皆・・・
 もはや誰も戻ってこない・・・もう、一人ぼっち。そんな『恐怖』に捕らわれたあの時期。また同じ気持ちを味わわなければいけないのか・・・
「もう・・・だめか・・・」
 『恐怖』は『絶望』へ・・・怜は目を閉じかけた。砂埃の視界を、暗闇が包んでいく・・・

「―――!!」
 突然闇を、砂塵さえも貫いて、眩しい光が彼を照らした。
 青く優しいその光は、はるか地平線の彼方から届けられているようにも、すぐそこで輝いているようにも見えた。
 その光を、怜は知っていた。
「明莉・・・」
 体の内側から力が沸いてくるような気がして、怜は立ち上がった。同じく光をまとった己の剣を、大きく振りかざす。
「やぁああ!!」
 すさまじい衝撃に、周りの兵士たちが皆吹き飛んだ。

 立体映像が消えた。ようやく体の自由を得る明莉とみなみ。
「こんな狭い部屋だったとはね。ポーラの部屋よりちょっとだけ広いぐらいじゃない?」
「そうだね・・・あっ、怜!!」
 二人は怜のもとへ駆けつけた。
「やっぱり明莉だったんだな、さっきの光」
「よかった・・・届いたんだね」
 怜はすっきりした顔で微笑んだ。
「ありがとう。」
「怜・・・」
 初めて見る怜の顔だった。
「じゃあ・・・とりあえず転移装置で戻ろうか?」
「そうね」
 みなみは転移装置に触れようとして、ふと、その横にある扉を見た。
 声が聞こえる。