Star.24 邂逅

「明莉」
「うん?」
「私・・・どうかしてた。
 父さんと母さんを生き返らせてくれるって言われたとき、まだレグルスがこの組織の一員だって知らなかったのよ。
 だけど真実を・・・二人を殺した奴らの仲間だって知っても、そのために明莉を傷つけなきゃいけないって知っても、私、その言葉を完全に突っぱねられなかったの。
 同じ組織って言っても実は内部分裂してるんじゃないかとか、明莉のことは単に私を試してるだけなんじゃないかとか、自分に都合のいいように解釈してさ。
 それでも、やっぱり迷ってはいたんだけど・・・時間がないってせかされて、明莉だって分かってくれるだろうって言われて、あんなことしちゃって・・・」
「みなみ・・・」
「でもね、そうやってなし崩しみたいにこっちに来て、ポーラと話してるうちに気がついたのよ。
 父さんと母さんとの思い出も大事だけど、明莉と過ごした時間の方がもっと濃くて大事だったんだって。
 ああ、あんたに明るくしろって言いながら、実は私のほうが励まされてたんだなって、今頃気づいてさ・・・」
 自分のつま先を見つめながら搾り出すように話すみなみ。明莉はそんな彼女を見つめながら、静かに言った。
「私だって、みなみにずいぶん助けられたよ。みなみが一緒だったから寂しくなかった。
 卒業していなくなってからも、悲しいことがあるたびに『泣いたらまたみなみに怒られるな』って思って。
 だから・・・できればもう少し早く、力になってあげたかった。こんなことになる前に、どうして相談してくれなかったの?
 ううん、言えなかったよね・・・私が北斗たちとばかりいたから・・・ほんと、気づいてあげられなくてごめん・・・」
「なんであんたが謝るのよ・・・悪いのは私でしょ・・・!」
 二人とも涙腺の限界のようだった・・・が、その耳にガシャガシャという機械の足音が届く。二人はそれぞれの両目を乱暴にぬぐった。
「泣いてる場合じゃないね。いい機会だから、この件はチャラってことにしようか!」
「・・・あんたさえよければね」

「まさか直々においでくださるとは思いませんでしたよ、兄上様」
「ご丁寧にもお前の部下が案内してくれたんでね」
 ノクターンのメインコンピューター『マザー』を前に、どう見ても非友好的な笑みを交わす月影と陽一。
「おかしいですな。レグルスには、あのかわいらしいお嬢さんをここに招くよう指示しておいたのですがね・・・さてはネズミでもいたか」
「そんなことはどうでもいい。お前には予期せぬ事態なんだろうが、こっちには好都合だ。お前の野望、今こそ僕が止めてやる!」
 陽一は懐から投げナイフを取り出した。
「それが兄としての勤めだ。これ以上お前を、間違った道には進ませない」
「・・・いいでしょう」
 月影も短めの剣を出して構えた。

「いったいどのあたりなんだ、ここは・・・」
 端末を操作しながら、それでも警戒を怠ることなく歩く北斗。周囲に機械兵士の姿は見当たらない。
(レーダーも無線も利かない。ここへ放り出されたときの衝撃で壊れたか)
 冷静に、と自らに言い聞かせるのだが、徐々に足が乱れる。皆は無事か・・・
「誰だ!?」
 突然上がった声にぎくりとして足が止まった。こっちをにらんでいる、見覚えのない少年・・・いや、その服装で何者か分かった。
「プレヒューマン・・・!!」
「お前、侵入者だな!」
 少年――リゲルは叫ぶなり、左の袖を素早く捲り上げた。その腕に装着されていたのは、ボウガン。
「く!」
 矢が発射されるのを視認するより先に、北斗は横に飛んだ。鞘から剣を抜き放つ。
(まず距離を詰めなければ・・・!!)
 剣が届かないうちはこちらが不利だ。リゲルは息つく間もなく矢を連射してくる。ジグザグに駆けながら矢をなぎ払う北斗。
 左。次は右。
「この、ちょこまかと・・・!」
「やぁあ!!」
 ついに相手を間合いに捕らえ、銀の刃を大上段に振りかざす!
「ちっ!!」
 リゲルはすぐさま後退。剣は床を叩いた。北斗は再度間合いを詰めに走る。
(ん・・・?)
 リゲルは、北斗の動作一つ一つに妙な違和感を覚えた。・・・いや、違う。前にも一度見た気がするのだ。こいつとは初対面のはずなのに、なぜ・・・
 だがその思考が一瞬の隙を生んだ。北斗が一気に間合いを詰める・・・!
「!!」
 思わず受身を取るリゲル・・・だが、急に北斗の足が止まった。
 その視界の端に、人の姿を見たのだ・・・

「あ・・・分かった」
「何がっ!?」
 何体もの機械兵士を相手にしながら、明莉がポツリと呟いた。
「似てるんだよ・・・
 ポーラと、北斗」

 北斗は、自分でも訳が分からないまま立ちつくした。
 相手も――ポーラもまた、自分を見つめて立っている。
 一瞬、全ての時が止まった。