Star.23 再会

「足りないもの・・・」
 明莉はポーラの瞳を見つめ返した。
「マスターが僕を造ったとき事故があって、僕の元になった人から『精神データ』を取れなかったんだって。
 だから僕には感情や記憶・・・心って言えばいいのかな、それがないの。あと、DNAサンプルも量が不十分だったみたいで・・・」
 そう言って、ポーラは仮面をはずした。
「・・・・・・!」
 彼の顔の右半分には『皮膚』がなかったのだ。機械の骨組がむき出しになってしまっている。思わず凝視してしまう明莉。だが・・・
「あれ・・・?」
 なぜだろう、顔の左半分・・・きちんとした『顔』の部分に既視感を覚えた。誰かに似ている・・・? だが誰なのか思い出す前に、ポーラは仮面を戻してしまった。
「マスターは『気にするな、お前はお前になればいい』って言うけど、僕は気になる。僕は本当は誰だったのか。
 もしかしたらその人は死んじゃったのかもしれないけど、生きてるなら会ってみたい」
「そっか・・・分かるよその気持ち。その人は、あなたの親みたいなものだもんね」
「・・・親・・・そうかもしれない」

 なんだか二人してしんみりしてしまう。と、その空気を破って部屋のドアが開いた。
「ポーラ! ・・・・・・あ」
 みなみ、だった。その瞳に明莉を映し、明莉の瞳もみなみを映した。思わずしばらく停止してしまう・・・ややあって、明莉の顔いっぱいに喜びが広がった。
「・・・みなみ・・・!!!」
 勢いよくみなみを抱きしめる明莉。
「ちょ、ちょっと待って明莉・・・私・・・」
「心配したんだよ、心配したんだからね・・・!」
 泣きじゃくる明莉。みなみは弱くもがいていたが、やがて動きを止めて明莉を抱きしめ返した。
「ごめんね・・・ほんと」
「・・・許さないよっ」
 そう言いながら、明莉は顔を上げてむくれた。だがそれは、例えば子供が駄々をこねるようなかわいらしい顔だった。
「みなみが笑ってくれるまで、許さないっ」
「・・・! あんたって子は・・・」
 明莉は少し申し訳なさそうな顔をした。
「私のほうこそ・・・分かってあげられなくてごめんね・・・。みんな待ってるから、帰ろう?」
 みなみは目に涙をたくさんためて、笑った。それにつられるように明莉も笑った。

「そういえばみなみ、ポーラに何か用事があったんじゃないの?」
「あ、そうだった!! 用事というか・・・正確に言うと、かくまってほしいのよ」
「・・・・・・?」
 首を傾げるポーラ。
「実はね・・・私、レグルスのコンピューターをいじっちゃったの。それをリゲルに知られちゃって・・・!」
「ど、どうしてそんなことを?」
「明莉たちを・・・私のしたことのせいで危険な目に遭わせたくなくて・・・
 あなたとリゲルが友達なのは知ってるけど・・・うまいこと言って撒いてくれればいいから」
 しばらく思案しているポーラだったが、やがて頷いた。
「みなみ、それに明莉も一緒に逃げて。そこのコンピューターに転移装置のデータが入ってる。僕が時間を稼ぐから」
「・・・分かったわ」
 二人はコンピューターを起動させ、データを明莉の端末にコピーした。ポーラはそれを見届けると、部屋を出て行った。

「さ、行きましょう」
 作業を完了させ、立ち上がるみなみ。
「待って、逃げるならみんなと合流しないと。今、どこにいるのか・・・」
「大丈夫。少なくとも北斗君の居場所なら分かるわよ」
「え!?」
 みなみはコンピューターに複雑なコードを打ち込んだ。画面内の地図の、とある場所がポイントされる。
「北斗君はここ。移動してるかもしれないけど、少なくともこの近くね」
「どうしてそんなこと分かるの!?」
「当たり前よ、私が移動させたんだもの。レグルスの罠から救い出すためにね。あんた、ここへ来る直前に何があったか覚えてる?」
「・・・床や壁がゆがんで・・・みんなが、ばらばらになって、それで・・・」
「それが奴の罠。あいつは特殊な波動を発する鏡で、相手の感覚を自在にコントロールすることができるの。みんなその術に嵌って離れ離れにされちゃったわけ。
 私はハッキングで波動を止めようとしたんだけど失敗して、せめて安全なところにって北斗君を誘導して、明莉も・・・って時にリゲルっていうプレヒューマンにバレて。
 焦ってやったから明莉がどこへ飛んだか分かんなかったんだけど、まさかポーラの部屋だったなんて」
「・・・つまり北斗を率先して助けたわけね?しかも運が悪ければ、私は敵のど真ん中だったかもしれないと」
 じと目でにらむ明莉に返す言葉もないみなみ。
「いいよ、冗談だよ・・・とにかく、早く北斗のところに行こう」