Star.22 分断

 永遠の如き沈黙の後、陽一は立ち上がった。
「・・・行こうか」
 4人も立ち上がり手足をほぐす。長いこと息を詰めていたせいで体がガチガチだ。
「それにしても妙だな。あれから結構経ったはずなのに、話してる間何も起きなかったなんて」
 怜が辺りを見回して言う。
「とにかく進むしかないだろ。何か起きたらその時はその時だ」
 北斗がきっぱり言い放つ。先に発った陽一に従って歩き出した。その後姿を見つめる光輝。
「・・・いつもと違うな、北斗」
「だな。何というか無謀になった。あいつの戦場での言動には、これまでならしっかりした根拠と筋書きがあった。
 何の手がかりもなく強引に突き進むってのは、あいつのスタイルじゃない」
 怜もうなずくが、明莉は彼の背中を見つめたまま言った。
「違うと思う」
「え・・・・・・?」
「あれが、北斗なんだと思うよ。なんていうか、うまく説明できないけど」
 兄弟は顔を見合わせた。

「!?」
 急に陽一の足が止まった。北斗が彼につまづきそうになって前につんのめる。
「みんな、気をつけろ! 何か・・・」
 勢いよく振り返った陽一だが、遅かった。空間が、ゆがんでいく!
「な、何これ!?」
 立っていられなくなり尻餅をつく明莉。しかも北斗たちとの距離がどんどん離れていく・・・まるで流氷にでも乗っているみたいだ。それは皆も同じらしかった。
「くっ・・・!!」
 北斗が無理に立ち上がって手を伸ばすが、瞬時にバランスを崩して転倒する。さらに目や耳が、だんだんおかしくなってくる・・・異次元にでも入り込んだようだ。
 そして、すべての感覚が真っ白に塗りつぶされた。

「う・・・ん・・・」
 明莉が目を開けると、そこはどうやら小部屋の中らしかった。もう五感もしっかりしていて、立ち上がっても何の支障もない。
「北斗ー! 怜ー! 光輝さーん! 総帥ー!」
 誰もいない。返事も返ってこない。どうやら完全にはぐれたらしい。
「もしかしてみんなをばらばらにするのが目的だったのかな・・・それとも、私だけが・・・?」
 明莉は辺りを見回してみる。人が一人横になれるサイズのカプセル状の機械、コンピューターの端末・・・なかなかシンプルな部屋だが、誰かの個室のように見えなくもない。
「誰・・・?」
 突然静かな声がした。反射的に振り返る明莉・・・そこに立っていたのは一人の少年だった。仮面をつけ、カペラと同じ服装をしている。
「プレヒューマン!?」
 とっさに腰の銃に手をやる明莉だったが、相手はただこちらを見つめてたたずんでいるだけだった。
「あなたは誰・・・」
「わ、私・・・明莉」
 とっさに名乗ってからしまったと思った。その名を聞いて、相手が大きく動揺したからだ。
「君が、明莉!?」
「こ、来ないでっ!!」
 銃を抜き、引き金に指をかける明莉。それを見て相手はうろたえた。
「違うよ、待って! 僕は君に会いたかっただけ・・・」
「ヤドリギが欲しいからでしょ!?」
「違うっ・・・み、みなみから君の事を聞いて・・・」
「・・・!?」

「みんなー!! どこだよー!?」  声を限りに呼びかける怜だったが、そこには誰もいなかった。
 しかも彼がいる場所は建物の中ではなく、荒涼とした荒地のど真ん中だった・・・見た目は。さっき確認したがこれは立体映像らしい。歩き出そうとした瞬間見えない壁にぶつかったからだ。
「っ・・・みんな・・・」
 それでもこの景色が不安をあおることは間違いない。
「兄貴・・・!」

 光輝が飛ばされた先も立体映像の中だった。似たような荒地ではあるが、彼はこの場所に見覚えがあった。
「ここは・・・あの時の・・・」
 うすら寒い物が駆け抜ける・・・それは、恐怖だ。
 その景色は、あの戦争によって焼け野原にされた里だった。そして彼の目の前にあるこの丘こそ・・・
「まさかこんな舞台が用意されているとはな」
「!」
 低い声と足音がして、その男が目の前に現れた。長い刀を持った長身の男。
 光輝は覚えている。その男が炎を背に立っていたのを。その刀が血に濡れていたのを。
 ベテルギウス・・・両親の仇。

 ゆっくりと銃を下ろす明莉。相手はようやくほっとしたようだった。
「教えて。あなた誰? みなみとどういう関係?」
「僕の名前はポーラ。みなみとはいろいろ話したんだよ。君の事をたくさん聞いて、どんな人なのかなって気になったの。だってみなみ、君のことばかり話すから」
「みなみは・・・今、どこに?」
「わかんない。侵入者が入ったって警報が鳴ってから、どっかへ行っちゃった」
「・・・そう・・・」
 明莉は少しうつむいてから、改めて相手――ポーラを真正面から見た。
「あなたは・・・月影さんの命令で動いてるんじゃないの?」
「マスターは、まだ僕に命令したことがないの。早すぎるんだって。僕は『不完全』だから」
 ポーラはそう言って仮面に手を当てた。その奥の瞳が、こちらを見据えているのを感じる。
「僕はずっと探している。僕に足りないものを」