Star.19 廻りだす天球儀

「何してんだよ、ポーラ」
 転移装置を操作していると、後ろから声がかかった。
「リゲル・・・」
「マスターの指示かい? 君はまだ出ちゃいけないはずだけど、もう許可が出たの?」
「・・・・・・違う」
 その言葉に眉を吊り上げるリゲル。
「あいつに何か言われたんだね? そうだろ?」
「みなみは悪くない。僕が行きたいって言った」
「は・・・・・・?」
 絶句するリゲル。それを見つめているポーラ。
「ポーラ、僕たちはマスターのために存在してるんだ。僕たちを造り、命をくれようとしているマスターのために、僕たちは尽くさなくちゃいけないんだよ。
 そんな人を裏切るの?」
 強くまくし立てるリゲルに困惑するポーラ。
「・・・これは、裏切りなの?」
「そうだ」

 ゆっくりと里の中を散策する光輝、怜、明莉。
「そういや一度さ、兄貴と明莉、二人して教会に忍び込んだことがあったよな」
 怜が教会のとんがり屋根を見て、思い出して言う。光輝も思い出をなぞるように同じ方を見つめた。
「そうだったな。結婚式ってもんに憧れてさ、明莉連れ出してごっこ遊びしようって・・・
 もうちょっとで誓いのキスってとこで、大人たちに見つかってさ〜。惜しかったな〜」
「誓いの・・・って何やってんだか・・・」
 呆れる怜。そう言いながら傍らの明莉を見る・・・無反応。
「・・・ちょっとへこむな、これは」
 いや笑いがとりたかったわけじゃないんだけど、と苦笑いを浮かべる光輝。
「・・・どうして」
「ん?」
「どうして今、そんな話をするんですか・・・?」
「どうしてって・・・それは」
 頭をかきながら言葉を選ぼうとする光輝。
「気晴らしに・・・それと、できれば思い出してくれたほうが嬉しいから、俺としては」
「・・・みなみともそうやって遊びました」
「明莉、」
「一緒にお絵かきしたり、鬼ごっこしたり、・・・ときどき、怒られるようないたずらをしたり」
 重い沈黙。
「ごめんなさい・・・だけど、やっぱり気を紛らわしたりとか、そんなことはできないよ」
「・・・・・・」
 黙りこんでしまう二人。と、そこへ現れた人影。
「だったら行こう」
 北斗だった。決意をたたえた顔で皆を見渡す。その腰には愛用の剣が提げられ、手にはバギーの鍵が握られている。
「俺達だけで、みなみを連れ戻しに行こう」
「けど、目星はついてんのか!? 連中の拠点なんてそれこそ何百とあるんだし・・・」
 怜の言葉にも、北斗は揺らがなかった。
「だったら片っ端から行けばいい。たぶん転移装置で全部繋がってるはずだ」
「・・・お前って奴は」
 そろって肩を落とす兄弟。北斗は明莉に目をやった。
「行くんだろ」
「うん」
 明莉はしっかりと頷いた。それを確認すると、北斗はバギーの格納庫へと歩き出した。
「・・・結局、こうなるんだな・・・」
 北斗にしたがって歩きだす明莉の後姿を見ながら、光輝がぽつりと呟いた。

 敵地への出入り口の中で、里から最も近い場所から潜入した4人。北斗の話では、ここがほぼ一番端になるはずらしい。
「さすがに里そのものの地下にまでは伸びてきてないだろうからな。総帥の目が光ってるし」
「!! あれ見て!!」
 明莉が指差した先には、機械兵士たちが大挙して待ち構えていた。しかも装備がいつもとは違う。
「・・・なんつーご大層な・・・」
「ここが里から一番近いから防犯か・・・いや俺たちが来るのを予想して、か」
 ガシャガシャと音を立てる兵士達の右手には、それぞれ長い刀が装着されている。一斉に襲い掛かってきた。
「まずい、ベテルギウスの部隊だ・・・!!」
「ベテルギウス・・・!?」
 必死に応戦しながら叫ぶ北斗に、同じく銃を連射しながら聞き返す明莉。
「プレヒューマンで最強と言われた武人・・・あの戦争のときも主力は奴の部隊だった。そして・・・」
 北斗の顔が歪む。そのとき、剣戟に混じってドサッと音がした。
「怜っ!!!」
 敵にやられ、血を流して倒れている怜の姿が視界に飛び込んできた。
「っ・・・・・・!! あ、ああ・・・」
 それを見て、ロッドを振っていた光輝の顔が引きつる。
「まずい・・・怜! 起きろ、怜!!」
 北斗が剣を切り結びながら叫ぶが、斬られ方が悪かったのか、動けなくなってしまっているらしい。
(まさかっ・・・!?)
 明莉は最悪の事態を想像してしまったが、怜の指がかすかに動くのを見た・・・生きている。
 しかし、北斗はなぜか光輝の方を焦った目で見た。そして――
 光輝の手からロッドが落ちた。
「・・・・・・っあああああ!!! 怜―――――っっ!!」
 光輝の絶叫がこだました。