Star.12 逆さ十字

 急いで屋敷の外に出てみると、あの城門の外に機械兵士達が群れを成していた。その群れの中央にはカペラ。
 怜は大剣を手に走っていった。北斗と光輝はすでに向かっている。
「君はここにいるんだ」
 その光景を睨みながら陽一は言った。明莉は驚いて彼を見る。
「ど、どうしてですか!?」
「・・・、あの数を君が相手にできるわけがないからだ」
 それが本当の理由でないことは陽一の顔を見れば分かる。反論しようと口を開く明莉に陽一は言った。
「貢献したかったら病院の方に行ってくれ。翼たちがきっと不安がっているだろうからね」
「は・・・はい」
 自分に実力がないのも事実ではある。明莉は仕方なく病院に向かった。

「明莉ちゃん!!」
 院内に入るなり明莉を迎えたのは翼だった。そばには北斗の母――鈴蘭がついていてくれたようだ。
「翼君っ・・・」
「北斗さんたちなら大丈夫だよ。ね、おばさん」
「ええ、そうね」
 案外しっかりした言動をする翼に、明莉も胸をなでおろした。
「他の患者さん達はみなみちゃんが見てくれてるわ。この子は大丈夫だから行ってあげて」
 鈴蘭の言葉に明莉は頷いた。

 各病室を一つ一つ覗いて患者と話をして回る。やはりおびえている者が多く、カーテンも締め切っていた。
 明莉は彼らに、北斗たちなら大丈夫だと繰り返し語って元気付けた。そう言いながら、そっとカーテンをすかして見える光景に明莉自身も内心落ち着かなかった。
 さらに、彼らの世話をしているはずのみなみの姿も見えなかった。
「こういうときだからこそ傍にいてほしいのに・・・どこいっちゃったんだろう・・・?」
 患者達も彼女の居場所は知らないと言う。明莉はとりあえず水でも飲もうと思い給湯室に入ろうとした。
『・・・だから言ってるでしょ?!私にはそんなことできないって・・・』
(え?!)
 みなみの声だ。中で誰かと電話しているらしい。焦ったような声色に不穏なものを感じ、明莉は思わず耳をそばだてた。
『っ・・・それは・・・』
 一瞬沈黙するみなみ。ややあって、長いため息が聞こえた。
『・・・またあとでかけて』
「あっ、」
 急にみなみが給湯室から出てきた。明莉はとっさに反応が間に合わなかった。
「明莉、あんた聞いてたの・・・!!?」
「聞こえちゃっ、た・・・ごめん」
 みなみは目線を落とし、唇を引き結んだ。明莉が、え、と言うまでに、
「ごめんっ・・・・・・!!!」
 吐き出された言葉と共に、明莉の腹に拳がめり込んだ。

「くそ、きりがない・・・」
 城壁の外では激戦が繰り広げられていた。雑魚兵士達を相手に奮戦している3人・・・カペラは少し遠くで高みの見物を決め込んでいる。
「一人たりとも里には入れない・・・!!」
 北斗が剣を振る。光輝がロッドを突き刺す。怜が大剣を薙ぐ・・・
「ん・・・?」
 一瞬里のほうを振り返った北斗の目に、明莉を背負ったみなみの姿が飛び込んできた。彼女は城門をくぐりこちらにやってきた。
「遅かったわねぇ」
 カペラがにんまりと笑みを浮かべ指を鳴らすと、周りの兵士達が瞬く間に3人を押さえつけてしまった。
「くっ・・・!!?」
「うわっ!!」
 他の兵士達はみなみのために空間を空ける。彼女は舞台の中央まで来て明莉を下ろした。
「これでいいのね?」
 みなみはカペラをまっすぐ見て言った。
「上出来よ〜、【クルス】ちゃん」
「なっ!!?」
 カペラの言葉に、光輝が息を呑む。
「やっぱり・・・お前だったんだな、裏切り者は・・・!!」
 北斗が叫んだ。このとき、実は明莉の意識はうっすら戻っていた。しかし痛みで体が動かない。
(みなみが・・・そんな・・・)
「総帥はうすうす気づいてた。でも証拠がなかったんだ・・・」
「尻尾が出ないのも当たり前よ。この子はついさっきまで迷っていたんですからね。以前から私たちと連絡を取ってはいたけど、決定的なことをしたのは今回が初めてだったってワケ。
 でもどうしてなの? 今になってあなたが一番嫌がってた、親友を裏切るようなまねを?」
「さっき・・・レグルスって人に・・・」
 顔をゆがめるみなみに、カペラはため息をついた。
「またあの男なの・・・ったく、その方面にかけては勝てないってわけね。
 さ、気を取り直してメインイベントといきましょうか。その子の右手、さっさと切り落としちゃいなさい」
(右手っ!? まさか、この力を!!?)
 明莉は驚いた。と同時に、総帥の言葉の意味が分かった・・・彼らの狙いはこの力だから、明莉が出て行くのは危険だったのだ。
 力のことを秘密にしておけというのも、きっとそういう意味だったのだろう。
 みなみは懐からナイフを取り出していた。少し手が震えているが・・・明莉の右手を取る。
 ナイフが振り上げられた瞬間、北斗が精一杯身を乗り出し大声を張り上げた。
「やめろ!! 右手を切ったら明莉は死ぬぞ!!!」