Star.11 黒点

「やあ、やってるね」
「総帥!!」
 練習も佳境に入った頃、屋敷から陽一が歩いてきたのが見えた。
「明莉、今日の分が終わったら地下室においで。もう一つ訓練があるんだ」
「? …はい」
 陽一は意味ありげにほほ笑むと、今度は北斗に向かって皮肉っぽく笑った。
「北斗にはすずから伝言。いい加減に定時に礼拝に来る癖をつけろってさ」
「…別に俺は信者じゃないって言ってるのに」
「そうじゃなくて…毎日顔が見たいんだろ、母親としては」
 小さい子を宥めるように言い含める陽一。それを聞いている明莉は狐につままれたという顔だ。
「あの…すずって…」
「北斗のお袋さんだ、本名は鈴蘭さんっていうんだけどな」
「なんで総帥はあだ名で呼んでるんでしょうか…?」
「は?」
 尋ねてみると、傍らにいる光輝は何を聞くんだと顔をしかめた。そこへ怜が助け船を出す。
「しゃあないだろ。常識で考えたらかなり変だぜ?どう見ても総帥のが年下どころかガキと母親なんだから」
「あー、そうだよなあ…そうだった。あのな、鈴蘭さんは総帥の妹なの」
 …明莉、一時停止。
「ついでに俺と怜のお袋が鈴蘭さんの姉で同じく総帥の妹、つまり総帥は俺らの伯父さんに当たる訳だな」
「は……?」
 目を白黒させる明莉に、ついに兄弟は揃って吹き出した。
「あっはっはっは!! 明莉の顔、面白れ〜!!」
「わ、笑わないでよっ!」
「ははは悪い悪い…いや、気持ちは分かるぜ?総帥って見た目はあんなだもんな。でもあくまで肉体年齢が12歳ってだけだ」
「じゃあ実年齢は?」
「俺らも知らん」
 ・・・絶句。
「ついでに、なんでそんなことになってるのかも知らねえんだ。
 ただあの人は前の総帥の息子だったんだが、ある時突然姿を消したらしい。
 ところがあの戦争が起きると彗星のごとく戻って来て、混乱した里を見事に立て直して今の総帥の座に収まった。
 そん時からずっと…鈴蘭さんの話だと、失踪した当時から全く成長してないみたいなんだよ。
 タイムワープでもしたんじゃないかって話もあったが、それにしたって未だに12歳の体のままはありえな…いっ!?」
 光輝はギクッとして話を締め括らざるを得なかった…これでもかというほど眉を吊り上げた陽一が、彼を睨み上げていたからだ。
「誰が無駄話しててもいいって言った?明莉は訓練があるんだよ?」
「す、すいませ〜ん…」
 苦笑いで謝る光輝。はぁとため息をつく陽一だったが、こう付け足して屋敷に戻った。
「心配しなくて大丈夫だよ…。そのうち、話してあげるからね」

 屋敷の地下室には、たくさんの機械系統が張り巡らされていた。
「なんかこれって・・・こないだのノクターンのラボみたい」
 つい萎縮してしまう明莉に、陽一は苦笑いを返した・・・が、それはいつもより苦味の強い笑い方だった。
「・・・始めよう。ここに右手を置いて」
「右手・・・? もしかして、」
「そう。これは君の力を自分で制御できるようにする訓練なんだ。君の力は僕の印術によって何とか制御しているけれど、完全ではないんだ。
 術は少しずつ弱くなっているし、ふとしたきっかけで暴走することも十二分にありうる。だから君自身の手で制御できなければだめなんだ。いつも北斗達がそばにいるわけではないしね」
「はい。・・・あれ?」
「質問かい?」
「あの、術が弱くなってきているって言いました・・・?」
「ああ。この力は、完全に封じてしまっては意味がないんだ・・・」
「・・・・・・?」
 首をかしげる明莉だったが陽一があまりに深刻な顔をするので、それ以上聞いてはいけないのだと思った。さっき言われたとおり装置に右手を乗せ、さらにバンドで固定する。
「いいかい?このレバーを下げると、かけられてる印術が一時的に弱くなっていく。自分で力を抑えられるようにがんばってごらん。
 右手で大きなエネルギーの塊を包み込むようにイメージしてみて。行くよ」
 陽一がレバーを下げると、装置に激しい電流が駆け巡り、明莉の右手に大きな力がかかっていく。いや、これこそが明莉の力の本来の姿なのだろう。
「く・・・っ・・・!!」
 明莉は言われたとおりのイメージを浮かべ、右手に全神経を集中する。巨大だった力がゆっくりと押し込められ・・・
「きゃあ!!」
 バンッ!と音がして、装置のベルトが飛んだ。衝撃で床に倒れた明莉の右手が大きく光り輝く。力が、暴走する・・・!!
「フューム・ア・クレフ!!」
 陽一が叫んだ。ガチッという音と共に光が収束する。
「と、止まった・・・」
「少し無理をさせすぎたね・・・。次はもっとゆっくり行こう」
 明莉は立ち上がって、再び装置に手を乗せようとした。すると・・・
「総帥!!」
「!!?」
 扉が開き、緊迫した表情の怜が飛び込んできた。
「大変だ!! カペラの軍勢が、里の外に!!」
「なんだって!!?」