Star.8 決断

 転移装置の先は、牢屋だった。何人かの人が入れられている。翼と同じように『素材』にされるために囚われた人たちだろう。
「この程度なら兄貴無しでも大丈夫だな」
 怜は壁に設置されていたパネルに端末をつなぎ操作した。次々に音を立てて、各部屋の格子が上がる。
「あ、ありがとうございます!」
「翼!」
 一番奥の牢に、翼が入れられていた。3人は駆け寄る。
「北斗さん、怜さん! それに・・・明莉ちゃん?」
「翼君、大丈夫?!」
「う、うん」
 明莉は安心させるように翼の手をとった。
「よっしゃ。さっさと脱出するぞ」
「そうはいかないわよ!」
 部屋の奥から高い声が聞こえた。その場にいた全員がいっせいにそちらを向く。髪の長い女が一人立っていた。
「カペラ・・・!」
 囚われていた一人が叫んだ。
「まさか・・・プレヒューマンか」
 北斗が誰にともなく聞いた。翼がそれに答えた。
「この地区一帯のラボを任されてる、ノクターンの幹部の一人だよ・・・」
 そのやり取りを聞いてカペラがにいっと笑い、両手を胸の前で交差させるように構えた。指の間にはビー球のような小さな玉をいくつも挟んでいる。
「せっかくの研究素材を、逃がされるわけにはいかないのよね〜」
「怜っ! 皆を連れて装置に走れ!!」
 北斗が危機を察して叫ぶ。怜は身を翻した。助け出された人たちもあわてて続く。
「させないっ!」
 カペラが両手を払うように広げる。指の間の玉がいっせいに散って・・・爆発する!!
  ドン!ドカン!
「わああ!!」
 逃げ惑う人々・・・北斗がすかさず剣を振り、玉のいくつかを空中で切り落とした。明莉も撃ち落とそうとするが、対象が小さすぎて狙いがつけられない。
「奴自身をけん制しながら走れ! 翼の手を離すな!!」
「う、うん!!」
「明莉ちゃん・・・!」
「大丈夫、大丈夫だよ翼君・・・!」
 明莉は爆風の中翼の手を引き、もう一度構えを取るカペラに狙いを定めつつ走った。装置まであと5m・・・!
「きゃぁっ!!」
  ドン!
 足元で玉が破裂した! 直撃は免れたが2人揃って転倒してしまう。
「おとなしくおし!」
 カペラの放った玉が狙い違わず飛んでくる。もうだめだ・・・!
「明莉ーっ!!」
  ズガン、ドカァン!!
 北斗の叫び声に続き、玉の爆発音が響く・・・しかし、爆風が晴れたとき2人は無傷だった。またも明莉の右手が輝き、そして今度ははっきりと目視できる光の壁が2人を守っていた。
「!? これはっ・・・!」
 それを見たカペラが動揺した声を上げた。その様子を見た北斗は舌打ちをした。
(・・・ばれた・・・!)
「な〜るほど、この子ねぇ。噂の『宿主』さんは」
 カペラはにんまりと不気味な笑みを浮かべる。
「へ!? な、何――」
「明莉! 翼! 走れーっ!!」
 北斗の絶叫に我に返ったように走り出す2人。無我夢中で転移装置に飛び込んだ。

 転移先は先ほどの廊下だったが、機械兵士たちはいなかった。代わりに待っていたのは怜だった。
「大丈夫か、2人とも?」
「た・・・多分」
「他の人たちは、隊員のみんなに外へ誘導してもらった。兄貴に装置同士のつながりは調べ直してもらってるし、なんとかなってるだろ。北斗は?」
 まるで呼ばれたかのように北斗が装置から現れた。
「急げ、奴が追ってくる前に脱出するぞ・・・例の件もばれたしな」
「何!?」
 怜はぎょっとして明莉を見た。明莉は何のことやらという感じだが、質問してる場合ではない。
「行くぞ、急げ!!」

 怜の誘導で1Fまで戻ってくる。だが・・・
「遅かったわね〜」
「カペラ!!」
 他に通路でもあったのか、すでに先回りされていた。
「逃げろ!」
 北斗は叫んだ、が、遅かった。
  ズガァン!!
「わああ!!」
 背後の壁が爆発し、翼が瓦礫に埋もれてしまった! おそらくすでに爆弾が設置してあったのだろう。
「つ、翼君!! 今助けるから待ってて!」
 だが、明莉の力で重い瓦礫が動くわけがない。北斗と怜は壁や床に設置された爆弾をかわしつつ、カペラの相手をするだけで精一杯だ。
「う〜〜〜っ・・・」
 それでも手に力を込める明莉。北斗はすばやく周囲に目を走らせる。
(くそっ・・・!これしか・・・ない、か・・・)
 眉を思い切り歪めると、決意したように後ろへ走った。
「明莉、どけっ!!」
「えっ!!?」
 北斗は明莉をなかば突き飛ばすようにどけながら、瓦礫の山の上へ飛び乗った。カペラの爆弾が後を追って飛んでくる!
  ドン!ドガァァン!
 北斗はギリギリで避け、爆弾は瓦礫を吹っ飛ばした・・・翼が埋もれている、瓦礫の山を。
「つ、翼君ーっ!!」