Star.6 ビッグバン

 総帥の部屋。その場に緊迫した空気が流れる。
「情報によれば、翼が連れ去られた先はここ・・・第35ラボ。光輝の持ち帰った見取り図から見て、地下5F“実験体収容区域”に囚われている可能性が高い。
 北斗、怜、少数部隊を率いて奪還に向かってくれ。光輝とみなみは連絡・戦局分析のため待機」
「了解」
「ラボ内見取り図は君たちの端末にコピーしておく。それと――」
「わ、私は!?」
 明莉は焦って話に割り込んだ。
「君は・・・」
「現場に、行っちゃだめですか!?」
「あ、明莉!!? 何言ってんだ!?」
 光輝が驚きの声を上げる。
「翼君とは友達だし、私だって一応里の人間なんだし、無関係じゃないでしょ!?」
「昨日までコロッと忘れてたのにか?」
 北斗が眉根を寄せて言った。
「それは・・・」
「それに!」
 もともと不機嫌だった北斗の顔がさらに歪む。
「向かう先は戦場なんだぞ?分かってるのか」
「わ、分かってる・・・!」
「戦う力もないくせにか。来ても足手まといになるだけだ」
 明莉は一瞬ひるんだが、その瞳をぐっと見つめ返した。
「でも、でも・・・私にも何かができるかもかもしれない。だから、行きたい」
「・・・・・・!!?」
 それは本当に自然に出た言葉だった・・・なぜか北斗だけではなく、怜と光輝も動揺した様子を見せた。
「何よ、」
「・・・勝手にしろ。後悔しても知らないからな」
 北斗はがっくりとため息をついて部屋を出て行った。怜も続く。
  「そ、総帥!! いいんですか!」
 慌てて抗議する光輝だったが、陽一は顔を上げずにこう返した。
「現場の指揮を取るのは北斗なんだから。・・・それに、どのみち通らなきゃいけない道さ・・・」
 陽一は引き出しを開け、1丁の銃を取り出した。かなり使い込まれた跡がある。
「行くんだったらこれを持って行くといい。君の父さんが使っていた銃だ」
「私の・・・父さんの!!?」
「剣と違って、素人の君にもある程度は使えるだろう。気をつけて行っておいで」
「はいっ、ありがとうございます! 行ってきます!!」
 明莉は勢いよく部屋を飛び出していった。その背中を不安げに見送る光輝、そしてみなみ。
「明莉・・・」
(娘を守ってやれよ・・・聖人)
 陽一は目を閉じ、かつての親友に祈った。

「・・・あいかわらず口の減らない奴め」
 バギーの調整をしながら、北斗は毒づいた。そこにからかうように割り込む怜。
「そう言ってやるなよ。人のこといえないくせに・・・わざとだろ。あんな言い方したの」
「うるさい」
「なになに、何の話?」
 噂をすれば影、である。
「ん? いや、明莉はいつまでも明莉だなって話さ」
「はぁ!?」
「『私にも何かができるかもしれない』っての、口癖だったんだよ。お前の」
 怜は懐かしそうな顔をした。明莉は驚いて声もない。
 怜はまた意味深に笑うと、バギーのエンジンをかけた。

 牢に入れられた翼を見つめる、一つの影。
「マスターも酔狂よね・・・知ってたけど。『宿主』の目星がついたんなら、こんな子、捕えておく必要ないじゃないの。
 まあ、『素材』としてはなかなか使えるか。曲がりなりにもあの里の血を引く人間だし、何か特別な要素持ってるかもしれないしね」
 おびえる翼を前に、赤い唇の端が上がった。

 たどり着いたのは一見何の変哲もない、倉庫のような建物だった。
「ほんとにここ・・・?」
「施設の重要部分はほとんど地下にあるのさ。入り口は複数ある上、特殊な磁場を発して探知されないようにしてやがる」
「じゃあ、光輝さんはどうやって調べたの?」
「兄貴の腕ならワケはない。凄腕のエンジニアだからな」
「そうなんだ・・・すごーい!」
「シッ」
 全員が神経を張り詰めている。先に行った北斗は、包帯を巻いた左手で壁を探っている。
(何で左手なんだろう・・・?)
 北斗は右利きである。左手は普通の手と同じように動くようだが、積極的に使っているわけではない。剣も右手で握っていた。
 明莉が考え込んでいると、北斗の左手が・・・正確には左手の触れた場所が強く光った。
「・・・ここだ」
 それが鍵に相当する場所だったようだ。壁の一部が消え、地下へと続く階段が出現する。
「よし、行くぞ」