Star.5 Blackhole

『標的を逃がした?』
『申し訳ありません、マスター・・・里の連中に阻まれました。現在は敷地内にて保護されている模様』
『やけに対応が早かったな・・・まさか』
『!! まさか、宿主!?』
『【クルス】に伝えろ。その少女から目を離すな、とな』
『現在追跡中の、もう一人の標的はいかがいたしましょう』
『・・・引き続き、追え』

「いい加減にしておけよ・・・そんなガキのころの約束、後生大事に想ってるつもりかよ。まったく」
 声に振り返ると、苦笑いを浮かべた怜だった。
「何を言うか! 俺は本気だぞ」
「はいはい、わかったよ・・・」
 どうもこの2人、精神年齢が逆転している気がするのだが気のせいか・・・? だが、光輝が次に口にした言葉は思いがけないものだった。
「でもさ、考えようによってはこれでよかったのかもしれないな」
「え?何がですか?」
「明莉が・・・あの戦争のことを引きずってなくて。これまで普通に暮らしててくれて、ほっとしてるよ」
「そんなにひどかったんですか」
「・・・ああ・・・」
 光輝は今までで一番暗い顔をした。何か痛みをこらえるような顔だ。
「ごめんなさいっ、その話は、もうしません・・・! 怜も、ごめんね・・・」
「いや、俺は別にいいよ・・・ほとんど記憶ねえから。ほら」
 そう言って肩をすくめると、怜は前髪をかき上げた。そこには大きな古傷があった。
「落ちてきた瓦礫で頭を割ってな、ほとんど意識不明だったのさ。兄貴がいてくれなかったら今頃あの世だった」
「・・・・・!」
 息を呑む明莉。だが怜は神妙な顔で言った。
「これからも、こういう話はたくさん聞くぜ。その度にそんなふうに驚いてたら身が持たない。
 できれば免疫をつけておいたほうがいいと思うな・・・心構えだけでもいいから」
「・・・そうだね・・・ごめん」
 いやな沈黙が部屋を包む。と、そこへぱたぱたと足音が聞こえた。
「明莉! ・・・あ、怜くん、光輝さん」
 先ほど会ったみなみだった。
「総帥がもう話してもいいっておっしゃったの」
「そっか。ね、どうしてみなみがここにいるの?」
 みなみはちょっと目を伏せた。
「・・・あたしね、もともとここの出身なの」
「えーーーーっ!?」
 衝撃の事実だった。いったいどうなってるんだ、この運命のめぐり合わせは!?
「あの孤児院には、例の戦争で親を失ったここの子供がかなり引きとられてるんだ。スタッフもここの関係者が多い。
 そういう子供は卒業すると、ここに戻ってくる事が多いんだよ」
 光輝が説明してくれた。そういえば明莉がここに住む話が、やけに早く通った気がしたが、なるほどそういうわけか。
「養子にもらわれてった子も多いけどね。ほら、白峰 翼(しらみね つばさ)くんっていたの覚えてる? あの子もそうなのよ」
「ああ、覚えてる! 足がすっごく速くて、将来陸上の選手になるとか言ってた子でしょ」
「そうそう。今でも連絡取り合ってるんだよ。あいかわらず俊足は衰えないみたいで、今度大きな大会に出るみたい」
「えー、すごーい!!」
 みなみとはしゃいでいると、急に扉がバタンと開いた。北斗だった。
「浮かれてる場合じゃないぜ・・・その翼が、さらわれた」