Star.4 MilkyWay

「今はまだ、詳しく話すことはできない・・・でも、約束してほしいんだ」
「・・・分かりました」
 陽一の射るような瞳に促されて、明莉は頷いた。と、背後の扉が開いて、一人の男性が入ってきた。
「お部屋の用意ができました」
「ありがとう。明莉を案内してあげて、鷲沢」
「かしこまりました。さあ、こちらへ」
 明莉は陽一に頭を下げて部屋を出た。鷲沢と呼ばれたその男性は明莉にやわらかく微笑んだ。
「私は陽一様の補佐をしております。それにしても、・・・大きくなられた」
 どう返していいか分からずあいまいに微笑み返した明莉だったが、やはりこの人も自分を知っているのだ・・・と複雑な心境にかられた。

 4人はそれぞれ明莉の背中を見送っていたが、怜が口を開いた。
「・・・で? 結局明莉に会うためだけに帰ってきたのかよ、兄貴は?」
「憎まれ口を叩くな、かわいくないぞ弟よ。ちゃんと任務も果たしてきたさ」
 光輝は瞬時に明るい顔に戻り冗談めかして言いながら、一枚のディスクを総帥の机に置いた。
「連中の一部の所持ラボのデータだ。所在地、内部構造・・・バッチリだぜ」
「助かるよ、光輝」
 陽一はモバイルにそれをセットして読み出した。
「んじゃ、俺はもう行くぜ・・・部屋で一休みしてくるわ」
「じゃあコウ兄、後で」
 北斗が軽く手を振った。怜は兄の背中を見つめる。
「・・・兄貴・・・」
「ん?」
「・・・おかえり」
 光輝は弟に、ふっと微笑みかけた。
「ただいま」

 モバイルの画面を横から見ながら、北斗は陽一に尋ねた。
「・・・やっぱり言わないんですか、あのことは」
「ああ・・・彼女は今、あまりにもいろいろな真実を咀嚼している真っ最中なんだから・・・これ以上混乱させたくはないんだ。
 ・・・でも正直、まだ迷ってるよ。本当に正しいことなのかどうか。僕の見方はときどき一面的すぎるきらいがある・・・そのせいで君たちに悲劇をもたらしたことを忘れてはいない。
 いや、月夜(つきや)にだってそうだ・・・今度も同じことが起こりそうで怖いよ」
「今度はそんなことにはならない。俺達が必ずサポートしてみせる」
 つらそうに目を伏せる陽一に、北斗は言い切った。
「今は一人じゃないだろ、伯父さん」

「こちらが明莉様のお部屋でございますよ。ご私物などは後ほど孤児院の方から送られてきますので」
 鷲沢氏は一礼して出て行った。内装は木製のアンティーク調の家具が一通りそろっている。
 ふと、ベッド脇の小ダンスの上に目が止まった。写真が飾られている。
「・・・これ」
 幼い子供が5人・・・たぶん、小さい頃の北斗たちだ。その輪の中に自分がいるのを見て取って、明莉は胸が締め付けられるように感じた。底抜けに明るい顔で笑っている。
もうひとつ、北斗が今とは全く違う雰囲気だったことに驚いた。あの無愛想顔が嘘のように人懐っこい笑顔を全開にしている(ついでに左手の包帯もない)。
さらに、知らない子供が一人いる・・・女の子だ。自分よりおしとやかそうに見えるその少女。知らないようで、知っている気がする・・・いや、知っていたはずなのだ。
「懐かしいか?」
 突然後ろから声がした。びくっとして振り返ると光輝が立っていた。
「少しは思い出せるのか?」
「・・・いいえ」
「・・・そ、か」
 やはり少し寂しそうな笑顔を浮かべて、明莉の隣に立ち写真を覗き込む光輝。
「もうこの頃には戻れねーか・・・」
「光輝、さん」
「なんてな!いや悪りーな、辛気臭い話しちまってよ!」
 光輝は瞬時にニカッと笑って見せた。明莉は気になったことを聞いてみることにした。
「この女の子って、誰、ですか・・・?」
「・・・・・・あー」
 光輝の笑顔がゆっくりしぼんでいった。
「槙原 琴乃(まきはら ことの)・・・俺らの友達で今は、その、何だ・・・この世にはいない、ってやつだ・・・うん」
 明莉は血の気が引いた。
「・・・っ、ごめんなさい」
「・・・いや、いいんだ・・・気にすんな」
「だって私っ・・・! 知って・・・」
「前のお前、つまり記憶失う前のお前も、そのことは知らないんだよ。だからいいんだ」
「そう・・・ですか・・・やっぱり、戦争で?」
「まあ・・・うん、そんなもんだ」
 ちょっと引っかかる言い方だったが、これ以上聞くのはためらわれた。光輝はちょっと頭を掻いて言った。
「鷲沢さんも気が利くんだか利かねーんだか・・・よりによってこの写真飾っとくことねーのによ。どうせなら俺と明莉のツーショットとかさー」
「へ!?」
(何を言い出すんだこの人は!? そういえばさっきも『俺の明莉』とかなんとか・・・)
「あーあ、忘れちまったなんて惜しいなー。どこ行っちまったのかね、『大きくなったらコウ兄ちゃんと結婚するー!』とか言ってたかわいい明莉ちゃんはー?」
「・・・・・・・はい!!!?」