Star.2 裁きの里

(知ってる? 私を!?)
 またもパニクる明莉。道の両脇から出てくる機械兵士達を片手一本で蹴散らしていく北斗。怜も背中の大剣を抜き放って振るっている。
 その攻撃を縫って相手の鉤爪が明莉に襲い掛かる。明莉は恐怖のあまり顔を覆った、すると・・・
「また・・・!」
 右手の痣が光り、敵を弾き飛ばした。しかし今度はそれだけではない。青白い輝きは眩しいほどに右手全体を覆い、暴走を始めた!まるで内側で獣が暴れ狂っているようだ・・・!
「な、何っ・・・これ・・・!キャアア!!」
「まずい!!」
 北斗が後ろを振り返り、早口で何か呪文のようなものを唱えて剣先を明莉に向けた。すると、ガチッという音がして右手に何かで締め付けられる感触が。同時に光が止んだ。
「急げ、長くは持たない!」
 呆然とする明莉を引きずるように走る。すると行く手に城門のようなものが見えてきた。
「ついた・・・!」
 その門に飛び込むと兵士達は追ってこなくなった。微弱な電波が通っていて奴らは入ってこれないのだと怜が説明してくれた。
 中はどこかうらさびれたような集落だった。さらにその奥へと連れて行かれる。その景色を明莉は知らなかったが、どこか懐かしさを感じていた。気のせいだろうか。
 明莉がわけのわからない感傷に浸っていると、こちらに走ってくる人影があった。
「明莉!!?」
「み、みなみ!?」
 それは明莉の親友でさくら園を1年前卒業した十原(とおはら)みなみであった。
「何で明莉がここにいるの!?」
「な、なんか変なのに襲われて、この人たちに連れてこられて・・・」
「北斗くんたちに?」
 みなみは北斗の顔を見たが、 彼は不機嫌そうな顔を返しただけだった。
「任務中だ。話なら後にしろ」
「う、うん・・・じゃあ後でね」
 みなみは少し悲しそうな顔をして下がった。明莉は困ったようにみなみを振り返るが、じゃあ後で、と言うだけにするしかなかった。

 ようやく3人の歩みはゆっくりになった。
「・・・ねえ、聞いてもいい?」
「何だ」
 明莉の頭の中は聞きたいことでいっぱいだった。多すぎて何から聞けばいいのか分からない。それを察して怜が言った。
「襲ってきた連中のことなら、あとで俺達の“総帥”が説明してくれるから」
「そ、そう・・・なら・・・私の右手のことは・・・」
「・・・それも、俺達の口からは話せない」
「でも知ってるんでしょ!?」
「まあ・・・な」
 怜は気まずい顔をした。明莉は焦って何とか話をつなごうとする。
「じゃ、じゃあ! どうしてここ、『裁きの里』って呼ばれてるの!? それは答えても大丈夫・・・?」
「ああ」
 明莉はほっと息をついた。
「話はかなり昔、神話の時代にさかのぼる。俺らの先祖は時の権力者に仕えてて、人々に害をなす悪霊とか、攻め入ってくる反逆者なんかを、特殊な力で『封印』してたらしいんだ。
 ときには重罪人に刑を執行するのにもその力が使われた・・・国がまとまってからはそっちの方が多くなったらしい。
 ただ、時代が下るにつれてその力は危険視され、使い手たちは一線を退いてこの里にひっそり暮らすようになっていった。それが『裁きの里』の起源ってわけだ」
「そっか・・・その力って、なんなの?」
「お前、さっき見てたろ?北斗が使ったの」
「え!?」
「お前の右手の力が暴走しかけたのを鎮めただろ。あれが『印術』と呼ばれる力だ。何かのエネルギーの塊に鍵をかけ、その力を強制的に封じる・・・それは生物の魂をも封印できる。封印された生物は死んだように眠るわけだ。
 対抗勢力を廃し国を統一するためには大いに役に立ったが、平和になったらもはや用なし・・・“非人道的”だから迫害されたってわけだ。都合よくな」
「・・・」
「別に俺はなんとも思っちゃいねえよ。ずいぶん昔の話だからな。ただ受け継いだ力をちょっともてあましてはいるけど」
「あなたも使えるの?」
「怜でいい。まあ個人差があるけどな。大抵力の大きさは、使う人間のもつ意志の強さに比例する。一番の使い手が里の総帥になれる・・・二番手は北斗なんだ。次期総帥の最有力って言われてる」
 明莉は驚いて北斗を見た。自分とそう年の変わらないこの少年が次期総帥・・・
「じろじろ見るなって言ってるだろう、うっとうしい」
 明莉は切実に思った。少しでもすごい奴だと思った自分がバカだった、と。