Star.1 めぐり合う星々

「はぁ、もうすぐここともお別れか・・・」
 孤児院『さくら園』。その一室にて、荷造りしたダンボールの山に埋もれている少女が一人。
5歳のときからこのさくら園で育てられた。名を、香阪 明莉(こうさか あかり)。もうすぐこの園を「卒業」し、貸しアパートでの気ままなフリーター暮らしとなる。
 明莉は時計を見て立ち上がった。
「さてと、新しいバイト先、見に行こうかな」

 明莉は歩きながらそっと右手に触れた。青白い痣が浮き出ている。
 これのせいで明莉は、園内では少々浮いた子供になっていた。いじめられていたというわけではなかったが、どことなく避けられているような、疎まれているような・・・
確かに気味が悪い。しかもこのごろは色もはっきりして、次第に疼くようになってきている。
 しかも今朝はまた夢を見た。両親を失った、あの火事の夢だ。
(今朝は特別痛かったな・・・まるで、ほんとに火の中にいたみたいに)
 真っ青に塗りつぶされていく視界。燃えるように激しく痛む右手。この痣はそのときに刻まれたものだ。
「・・・ま、いっか!気にしない気にしない、うん!!」
 そう言ってガッツポーズを作ってみせる明莉。名前のとおり明るく居るべしというのは、親友で一つ年上のみなみからしょっちゅう言われていた『格言』だった。と・・・
「・・・ん?」
 明莉の耳に聞き慣れない音が響いた。ガシャガシャと・・・機械の動く音?
「キャ――――!?」
 目の前に現れたのは、真っ黒な鎧のような物を身にまとった者達だった。あからさまに不審すぎる彼らは、鋭い鉤爪を明莉に向ける。
『標的発見』
「うそうそ、どうなってんのこれ!?」
 明莉がパニックに陥っていることにもお構い無しに、鉤爪が振り下ろされる!明莉はとっさに右手で顔を覆った・・・!

   ガキィン!!

「・・・へ?」
 来ると思っていた衝撃がこない。恐る恐る顔を上げると、相手の鉤爪は空中で静止していた。否、何か見えない壁を押し返しているといったほうが正しい。
とにかくその明莉の頭までの数十センチの空間を、どうしてか相手は突き抜けられないでいるのだ。
明莉は気づいた。右手がまたも熱を放っている。しかも、痣が青白く光っているのは気のせいじゃない・・・!
(どうなってるの、いったい!)
 驚いて声もない明莉だったが、不意に体が後ろへ引っ張られた。だがこれは超常現象でもなんでもなく、一人の少年が明莉の腰をつかんで後ろへ下がらせたのだった。目の前にはもう一人少年が立ちはだかり、手にした剣で敵の鉤爪とつばぜり合いを繰り広げていた。
 明莉は自分を下がらせたほうの少年を振り返った。この少年は大きな剣を背負っている。敵と対峙している方の少年は剣を振るい、返しざまに相手を一刀両断した。さらに大きく跳躍し、他の敵たちへと身を躍らせる。
「な、なんなのあいつら・・・それに、あなた達っ・・・!」
「あいつらは『ノクターン』という組織の機械兵士・・・奴ら自身は『プレヒューマン・スカル』と呼んでいるな」
 確かに、真っ二つになった敵の断面からは機械の配線が覗き、バチバチと音を立てている。相手は人間ではなくただの機械というわけだ。
「・・・ってそうじゃなくて!」
「すまん、詳しく説明してる時間がないんだ――北斗!済んだか?」
「ああ」
 襲ってきた機械兵士を全て切り伏せた少年は、涼しい顔で戻ってきた。
「でも、きっとまだどっかに・・・、あ!」
 さらに物陰からたくさんの機械兵士が出てくる。剣を持った少年は舌打ちした。
「おい、走るぞ」
「へっ!!?」
「俺達の『里』へ連れて行く。詳しい話はその後だ!」
 少年は明莉の手をとるなり走り出した。
「ど、どこへ行くのよ・・・! っていうか、あんたたち誰よ!」
 いっぱいいっぱいになりながら質問する明莉。それを聞いて、明莉の手を引いている少年が眉根を寄せた。
「無駄口たたいてる場合じゃない、とにかく走れ」
「なっ!? なんで訳もわかんないままどっか連れて行かれなきゃならないの!! これじゃ誘拐じゃない!!」
 わめき散らす明莉に、大剣を背負ったほうの少年が苦笑した。
「・・・そうだな、もっともな意見だ。分かった、俺が答える・・・まず俺たちの行き先は『裁きの里』と呼ばれている場所。
 あまり広くは知られていない、隠れ里って奴だ。奴らからお前を守らなきゃならないからな、そこに行けばとりあえず安全なんだ。
 そして、お前の手を引っ張ってるのが出雲 北斗(いずも ほくと)、俺が天河 怜(あまかわ れい)だ」
 そう自己(他己?)紹介されて明莉は2人を交互に見比べた。と、明莉の手を引っ張っている北斗の左手に、包帯が巻かれているのに気づいた。
 別に怪我して痛そうにしてるわけでもないが・・・なんて思っていたら北斗がチラッとこちらを見て、言った。
「そうじろじろ見るんじゃない。そんな暇あったら足を動かせ」
「〜〜〜〜〜!!?」
 なんつういけ好かない奴!!! 憤慨する明莉の横で、怜の苦笑いが濃くなった。と、明莉はまだ自分が名乗っていないことに気づいた。
「あの、私、香阪 明莉です」
 それを聞いた怜は意味深に笑った。
「・・・ああ、知ってるさ」